音楽クラコ座vol.13《Next to Beside Besides》の紹介

2月24日公演、音楽クラコ座vol.13「ゆがむ共振・アナセンの視えるオンガク」では、シモン・ステーン=アナセンの代表的な作品シリーズを演奏します。このエントリーでは、ソロ楽器群のための《隣のそばのその向こう Next to Beside Besides》(2003-6)をご紹介します。

このシリーズの発端は「#0」とされるチェロ作品ですが、その後「増殖」して、以下の楽器のための作品が出そろっています。

#0 Cello
#1 Double bass (version 1)
#2 Saxophone (any size or combination)
#3 Accordion (version 1)
#4 Snare Drum (percussion version 1)
#5 Flute (can also be played by a percussion player)
#6 Violin (a) or viola (b)
#7 Piano (with whammy pedal)
#8 Guitar (version 1)
#9 Double bass (version 2)
#10 Camera (!)
#11 Vibraphone (percussion version 2)
#12 Accordion (version 2)
#13 Guitar (version 2)

基本的にどの曲も同じ音楽構造を持っています。たとえばはじめの5小節は4/4(拍子)、つぎに 6/4,2/4と3/4が各2小節続き……そしてテンポも同じで、どれも72小節目で終わります。それぞれの楽器特性を活かした書き方になっているため、一見楽譜の景色は違うかな、と思いきや、実はリズムも同じなので、よく見るとかなり似ていることがわかります。

ということは、元曲であるチェロのための「#0」のリズム構造を、そっくりそのまま他の楽器に「移植した」ような感じといえば良いのでしょうか?

そして作曲者は、ソロで演奏するのは元曲と#1 のダブルベース(ver.1)の2曲が良いが、その他のものはむしろ様々な組み合わせで演奏することを勧めています。

たとえば 次のチェロとスネアドラムのバージョン。スネアドラムがスティックを弦と見立てているような行為を指定しているため、スネアドラムがチェロを模倣しているように見えます。

ただしどの楽器でも見た目だけの模倣をしているわけではありません。楽器の原理や構造などから、同じリズムでも全然違う音が出たりしますから、次のギターとアコーディオンの組み合わせのように、「同じ曲だけど違う曲」を一緒にやっているような状態にもなります。

このような形態を、作曲者は「choreographic translation」つまり「振り付け的な翻訳」と呼んでいます。元はチェロですが、そこから様々な楽器に「翻訳」されていき、しかも翻訳されたのは「振り付け」であることから、異なる楽器が同時に演奏しても合う、というよりむしろ楽器間の微妙な差異を発見し楽しむことができます。

YouTubeにはいろんな組み合わせのデュオ、あるいは(なぜか)同じ楽器のアンサンブルによる演奏動画がアップされています。作曲者によると、異なるコンビネーションを楽章として互いに続けて演奏したり、リトルネロとしてコンサートの他の曲と曲の間に演奏したりすることもできる、とのことですが、今回のクラコ座の公演では、ソロ、デュオ、トリオ、カルテットをプログラムの中にリトルネロ(サンドイッチ状)に組んで演奏します。演奏するのは以下の組み合わせです。

#0チェロ
#2+#5 (サックス+ピッコロ)
#5+#6+#7 (ピッコロ+ヴァイオリン+ピアノ)
#0+#2+#6+#7 (チェロ+サックス+ヴァイオリン+ピアノ)